研究概要 |
このたびの科研補助によって3年間かけ,解脱房貞慶(1155-1213)という著名人が法相教学の転換点に位置する人物でもあったことを16の研究成果(書籍1冊・論文15)をもって明らかにすることができた。書籍の1冊は,楠淳證著『心要鈔講読』(2010年7月刊)であるが,別に1冊,貴重文献(古文献)を翻刻読解研究した共同研究論文(南都仏教第95号)もある。『南都仏教』の本号は2010年12月付で刊行されたものであるが,実際は諸般の事情により2012年1月に配布されたため,昨年度,研究実績として報告できなかったものである。しかし,これこそ我々の研究グループにとって大きな研究成果の一つに他ならず,そこには(1)楠淳證「貞慶撰『安養報化』(上人御草)の翻刻読解研究」(4-89頁),(2)蜷川祥美「貞慶・蔵俊・勝超合冊本『見者居穢土』の翻刻研究」(90-126頁),(3)新倉和文「蔵俊による天台一乗批判の展開-『法華玄賛文集』八十九の翻刻読解研究を中心にして-」(127-196頁),(4)貞慶の「因明四種相違」解釈-『四相違短冊』「法自相相違因」翻刻読解研究-」(197-285頁)という4編全285頁にわたる大部の研究が収められている。このような貴重文献の翻刻読解研究ならびに種々の研究論文によって,当初の研究目的である「法相唯識の転換点」を明らかにすることができたことは,たいへん意義深いことであったと考えている。なお,この3年間の研究を通して,法相論義の中に「秘された論義と公にされた論義」が種々あることも明らかになり,今後はその解明につとめたいと考えているところである。
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