研究概要 |
平成23年度は,プラマーナ章翻訳研究会(研究組織全員参加)の開催,ナヤ章翻訳擦り合わせ作業,ニクシェーパ章試訳作成を主な作業として執り行い,以下のような新たな知見が得られた. (1)聖典を起源とする五知説のうち,matijnanaとsrutajnanaの区別については,「ことばに従う」(srutanusarin)か否かという基準がジナバドラによって提唱されており,ヤショーヴィジャヤもジナバドラ説を踏襲している.この基準に従い,matijnanaを「感覚知」,srutajnanaを「言語知」と翻訳することが,最も適切である. (2)ヤショーヴィジャヤが全面的に依拠しているジナバドラの到達作用説では,耳・鼻・舌・皮膚という四つの感覚器官の場に,それらの対象が到来して接触が起こる.したがって,ジナバドラはこれら四つの感覚器官を`praptakarin'と呼んでおり,感覚器官が対象の場に到達することを意図する`prapyakarin'という語を使用していない. (3)意欲(iha)の本質は,付随しない属性の否定と付随する属性の結びつけである.つまり,未だ特殊が確定されていない対象について,「眼によって把握されていること」を否定し,「耳によって把握されていること」を結びつける作業そのものである.これらの作業を通じ,「音である」という判断(apaya)が生じる.このように意欲は単なる疑惑ではなく,判断へと向かう知の一段階と考えられる.(4)言語知(srutajnana)の理解扶助のために,ジャイナ教におけるアーガマ観の考察を行った.アーガマとは,救世主を源泉とする「知」の継承行為であり,スートラという形で後の教団に保持されていくものである.
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