全10巻からなる『法華経細註』については、巻1上所収の「序品」について、データベース化と内容の検討を主に行った。本書の研究が本邦初めてなので、公開に向けてのデータベース化それ自体極めて重要な意義を持つが、内容の検討によって、同書には少なくとも2度、時を隔てて白隠による書き込みがなされていることや、梵語についての知識、また注釈の綿密さなど、いろいろなことが明らかとなった。当初予定していたもう一つの研究である白隠の書画に関しては、幸い、国際禅学研究所の芳沢教授によって国内における書画が網羅的に調査した結果がタイミングよく公刊されたので、それをもとに、同書に所収されていない所蔵品の調査を東京、静岡、北海道地区において行った。今後も、引き続きこの種の調査を行っていく必要があるが、これらの資料によって、この方面からの教判研究を進めることが可能となった。21年度は、当初予定していた上記の研究に加えて、白隠の教判論の研究の制度を高めるために、禅そのものの理解(白隠禅の系譜、現在の臨済宗諸派の状況、眼ある老師についての諸資料の収集と実情調査等)と法華経立ちの諸宗の教学理解(迹門立ちの天台・特に本覚法門、本門立ちの日蓮宗、さらにより深い本門の教学)が不可欠と考え、静岡県、京都府、鳥取県、北海道、東京都の各寺院、先師先徳を訪ねた。その結果、法華経の注釈、また書画において、基本的に白隠がどのレベルの法華経にもとづいていたかを判定する基礎を得ることができたこと、また鳥取の調査では、本覚門について思いがけない情報を入手することができたことなど有益なものとなった。この点については、別途、本覚門等の天台教学を研究するために鳥取市大雲院の調査が必要と思われる。
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