1.具体的研究内容 本年度は2011年4月20日から25日まで、本課題の主要調査対象である、1971年以来10年に一度開催されてきた知的障害児たちの国際ルルド巡礼<信仰と光>が行われ、パリ・グループの一員として同行した。障害のある人・家族・ボランティア・医師はもちろん、同行したグループには後述の<障害者と支援者のためのキリスト教事務局>の創設者マリー・エレーヌ・マチュー氏や長く韓国で宣教に当たった司教など指導的立場にある人たちも参加しており、それらの立場が異なる人たちと交流を図りながら非常に有益な調査をすることができた。なお、2010年に調査したトロントの<ラルシュ>共同体は今回の巡礼に参加しなかったため、計画していた調査は残念ながらできなかった。巡礼の前後にはパリで、<信仰と光>の主催団体である<障害者と支援者のためのキリスト教事務局>と<ラルシュ>で、スタッフとボランティアの聞き取り調査を行った。10月8日から10日に予定されていた日本・韓国・台湾・香港合同のアジア地域<信仰と光>奈良巡礼は、原発事故の影響で計画が二転三転し、一時は中止も考えられたが、最終的に日本と香港のグループだけで行われ、調査をすることができた。年間を通し、前年度から引き続いて、収集した資料の分析を進めた。 2.当該年度の研究の意義と重要性 パリとルルドでの調査は計画通り実施でき、24年度以降の調査研究の準備も進んだ。アジアの<信仰と光>活動については、奈良巡礼の規模が縮小され、何もかもが想定外の巡礼だったということで参加者たちにも戸惑いがあり、「フランスと日本(アジア)の比較」のためには十分な調査ができなかったが、今まで交流のなかった関西の<信仰と光>活動とのつながりができた。またこれらの調査を通し、「生命倫理」の問題は、当事者が直面する現実の場面では、同時代の「(市場)経済倫理」によって規定されていることに気づき、23年度の計画(経済・貧困問題ではなく生命倫理問題へのヴァチカンの対応に重点を置く)をあらため、「市場経済倫理(私有と等価交換)」と「贈与行為」の関係について考察を進めるという今後の研究の方向が定まったことが、最大の収穫であった。
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