紀元後1世紀のユダヤ人著作家ヨセフスは浩潮な著作群をギリシア語で残した。『ユダヤ戦記』『ユダヤ古代誌』『アピオーンへの反論』『自伝』である。これらはイエス時代の著作でもあるため、紀元後2世紀以降キリスト教会の著作家たちによって反ユダヤ主義キャンペーンのため使用されてきた。その顕著な例は4世紀の教会史家エウセビオスである。中世になるとヨセブの著作はラテン語に翻訳され、17世紀になると、それは英語やフランス語などの近代語に翻訳された。 研究代表者は英語圏でのヨセフスの近代語訳の蒐集を開始して久しいが、2009年度の夏のオックスフォード滞在中は、ヨセフスの近代語訳やラテン語訳をロンドンおよびケンブリッジで購入し、とくにその近代語訳に見られる反ユダヤ主義的言説を分析した。同年の12月にはダブリンのトリニティ・コレッジのズレイカ・ロジャーズ教授の薦めにより、研究代表者の研究成果をイギリスのブラックウェルから出版予定の『ヨセフス』論集に掲載することに同意している。論文提出は2011年の1月であり、同年中に論集は出版の予定である。 研究代表者は2009年の11月にアメリカのニューオリンズで開催されたアメリカ聖書文学協会主催の学術大会で「エルサレムの陥落とエウセビオス」と題して、エウセビオスの手になるヨセフスの著作の誤用・乱用・悪用について発表し、また同年の12月に開催された京都大学文学部基督教研究室主催の研究会でも発表した。
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