研究代表者が長年研究してきたのは紀元後1世紀のユダヤ人著作家フラウィウス・ヨセフスが書き残した『ユダヤ戦記』全7巻と『ユダヤ古代誌』全20巻である。これらの著作をギリシア語から翻訳し、古代キリスト教世界(1世紀~4世紀)における教会著作家による受容の歴史を学び、近代の英語圏におけるその翻訳と受容史を解明することで、歴史の中におけるヨセフスの著作の全体像を把握するように努めてきた。この過程で分かったのは、ヨセフスの著作が西欧キリスト教世界における反ユダヤ主義の誕生と展開に密接に関わったことである。 平成23年度は引き続き17世紀から19世紀にかけて英語圏で翻訳出版された「ヨセフス全集」を収集し、その分析を行った。その成果は2011年12月30日刊行の京都大学基督教学会の論集『基督教学研究』第31号(2011)の巻頭論文として「英語圏におけるヨセフスの近代語訳とその受容史」の論文名で公にされた。また、ほぼ同じ内容のものがダブリン大学Zuleika Rogers教授とカリフォルニア州立大学Honora Chapman教授が共同編集する『A Companion to Josephus in his World』に掲載され、イギリスのWiley-Blackwell出版社から2012年に出版される予定である。なお研究代表者はヨセフスが七十人訳ギリシア語を使用して『ユダヤ古代誌』を著作したところから、その分析も行った。その成果はヨシュア記を取り上げた『聖書と殺戮の歴史』(京都大学学術出版会、2011年11月)で一部結実させているが、サムエル記と列王記を中心として論じたダビデとソロモンの時代を扱った書物を京都大学学術出版会から出版予定である。なお、昨年度出版された『古代世界におけるモーセ五書の伝承』の英語版も2012年にオランダの出版社E.J.Brillから出版される。
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