研究課題/領域番号 |
21520073
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小原 克博 同志社大学, 神学部, 教授 (70288596)
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キーワード | 宗教 / 世俗化 / 信教の自由 / 政教分離 / 近代化 / キリスト教 / 近代日本 / 天皇制 |
研究概要 |
本年度は、ポスト・セキュラリズム研究の前提となる近代化と宗教の関係を、近現代日本および中国を事例として考察し、以下のような研究成果を得た。 第一に、東アジアにおいても近代化はナショナリズムと密接に結びついており、ナショナリズムの形成過程において、宗教が積極的に利用されたり、反対に積極的に排除される場合があった。前者の例は、近代日本における神道と国家の結びつきに見ることができる。後者の例としては、近代日本において仏教や、とりわけキリスト教のような外来宗教が宗教政策の中で排除されたり、中国の文化革命期において、宗教や伝統文化が放逐されたことをあげることができる。しかし、その中国においても、20世紀の終わり頃から、共産主義イデオロギーの弱体化を補うかのように宗教復興現象が見られ、政府もそれを選択的に許容している。 中国では信教の自由が広く享受されているとは言い難いが、1990年代後半以降、国家秩序に抵触しない範囲で、宗教研究に対する自由度が着実に拡大している。しかし他方、チベット問題に代表されるように、国際社会から繰り返し批判されている火種を国内に抱えている。単に世俗主義を原則とするだけでは、国家秩序を維持できないという意味では、中国もまたポスト・セキュラリズムの視点から、今後の動向を分析されるべき国なのである。 第二に、ポスト・セキュラリズム社会においては、宗教的価値を私的領域に押し込めるのではなく、むしろ、宗教の違い、あるいは宗教の有無を超えて形成される公的領域あるいは公共圏の中に宗教的価値規範を慎重に位置づけていく必要がある。多様なアイデンティティを超越的に媒介する価値は、宗教と呼ぶより倫理に近いと言えるが、それは近代において広く見られた宗教の道徳化・倫理化とは異なる。公共政策を支える宗教や倫理の新しい姿を問うのがポスト・セキュラリズム研究における重要課題の一つとなるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」(文部科学省)の研究代表者、「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」(日本学術振興会)の主担当研究者を務めていることから、そこから得られる相乗効果がある一方、時間的な余裕を十分に確保できないことにより、本研究がやや遅れ気味となっている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度であるため、これまでの研究を総括するための研究発表、論文執筆を行う。できれば、単著の形で、本研究の成果を世に問いたい。
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