平成21度の第一の成果は、本研究の枠組みを応用して日本語教育が直面する問題を考察したことである。外国人がつねに受動的な言語主体としかみなされないのは、日本社会の文化的共同性がある種の障壁となっていることについて指摘し、そうした状態を是正するための解決策を提案した。この論文は、本研究の視点が現実的な問題への適用にも有効であることを証明している。第二の成果は、本研究の成果を二度にわたって海外の大学での講演で発表したことである。これらはいずれも韓国の大学の招聘による招待講演であり、本研究の成果の発表の場であるとともに、韓国の研究者との交流の一環として行なわれた。延世大学での講演は、韓国の国家的な研究教育プロジェクトである「BK(Brain Korea)21事業団」による「国家碩学招請講演」として企画された。そこでは、社会言語学で論じられてきた「言語の近代化」の一般的な枠組みのなかで、近代日本の言語ナショナリズムの特徴を分析した。実施計画に記したように、言語政策の観点としてではなく、言語思想史の観点から問題をとりあげた点に意義が見られる。プサン大学での講演は、「古典」とされる作品は、ある社会の文化的共同性の支えとして歴史的に構築されることを論じた。この講演は2010年6月に公刊予定である。これらの講演は、前者が言語ナショナリズム、後者が文化的共同体主義の焦点をあわせており、両者が補完しあって本研究の全体像を作っている。また、これら二つの講演は、平成21年度研究実施計画に記した、国際的研究ネットワークにもとづく日本研究の遂行という目的を実現したものである。
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