平成23年度は最終年度であることから、これまでの研究成果を海外の学会、シンポジウム等で発表することをこころがけた。年度における研究目的は、以下の三点にまとめられる。(1)共同体主義とメディア・ディスコースとの関係、(2)言語ナショナリズムにおける自己と他者の境界設定の問題、(3)言語ナショナリズムと「ダイグロシア」との関係。 (1)の問題は、一橋大学と延世大学の国際共同シンポジウム(ソウル市)における研究発表でとりあげた。そこでは、実際の新聞の紙面で戦争報道がどのように扱われるかを見ることで、メディア・ディスコースのなかで共同体主義の視点が具体化されるあり方を論じた。 (2)の問題は、延世大学で開催された国際学術大会(原州市)、そして中国・武漢市での国際学会での発表でとりあげた。この二つの発表では、近代日本における漢語の問題と中国認識の変容に注目することで、「中国」が他者化されていくのと平行して、「日本」「日本語」が自立した言語ナショナリズムの基盤となっていくプロセスを明らかにした。 (3)の問題は研究全体の総括であるとともに、新たな研究方向への展開をも指し示すもので、ハイデルベルク大学での国際シンポジウムにおける発表でとりあげた。近代日本においては、言語ナショナリズムと共同体主義が相互に働きかけあうことによって、形式的にも内容的にも、言語表出の同質化が推し進められた。しかしそれと同時に、1945年以前の日本の言語体制は「書/話」「公/私」の二分法に基づく「ダイグロシア」の特徴を帯びており、言語様式の階層制が成立していた。発表では、一見すると矛盾するこの二つの方向が交叉することで近代日本の言語ナショナリズムが形成されたことを論じた。なお、この国際シンポジウムの成果は平成24年度に論文集として刊行される予定である。
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