今年度は学内資金により、本科研費の研究テーマに関わる資料の収集のための在外研究をおこなうことができた。フランクフルト大学付属図書館ホルクハイマー・アルヒーフとベルリン芸術アカデミーのベンヤミン・アルヒーフで調査を行った。この調査のための準備、収集した資料の分析が今年度の研究の中心的内容を占めることになった。調査の成果は大きく3種類に分けられる。 (1) ホルクハイマー・アルヒーブにて、おもに『啓蒙の弁証法』に関する未公刊の草稿群を調査した。重要と思われる資料について、写真撮影して持ち帰ることができた。 (2) ベンヤミン・アルヒーブでは、初期ベンヤミンの思想に関連する文献を調査し、一部を複写して持ち帰った。また、アルヒーフでのみ利用可能となっているベンヤミン全集の電子検索システムを利用してベンヤミンの重要概念に関する検索をおこなった。 (3) ベンヤミン・アルヒーフに併設されているアドルノ・アルヒーフにてアドルノの未公刊講義録を調査した。 いずれも本科研費の研究テーマの研究水準を高める貴重な資料であり、日本では入手が不可能であるか困難な資料を得ることができた。今後、これらの資料の分析を進め、成果として発表していく。 また、8月には「アドルノにおける<他なるもの>」という報告を行った。アドルノの思想に関して、昨年度の発表成果をもとにしながらそれをさらに発展させるべく、展開の方向を試行するものであり、有意義な議論と有益な助言を得ることができた。
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