本研究の目的は、(1)コンディヤックとボネという二人の代表的感覚論者の思想を比較検討し、感覚論哲学の総合的研究の第一歩とすることであり、また、(2)感覚論哲学を現代の観点から捉え返し、その現代的意義を探ることである。 平成22年度は、まず(1)前年度に続いて、コンディヤックらの狭義の感覚論哲学と親和的な性格を持つ啓蒙時代の著作の一つであり、匿名で手写本の形で発表された『世界形成論』の研究を進めた。報告者によるこの著作の日本語訳と解題は、『啓蒙の地下文書II』として法政大学出版局から平成23年6月に刊行される。 コンディヤックとボネの感覚論哲学の研究それ自体としては、まず論文「コンディヤックの感情論」を実質的に完成させた。この論文は現在投稿受け付け中の名古屋大学大学院国際言語文化研究科紀要に平成23年9月に掲載予定である。また、「ボネの『自伝』に見るコンディヤックとの関係について」という論文の準備も進めた。 他方、(2)現代フランスの代表的哲学者デリダと、コンディヤックの感覚論哲学の接点も探求した。デリダは、コンディヤックが自らの『人間知識起源論』の内容を「組み換え」ようとしたことを、現代思想における「事後性」の概念を用いて論じている。この点を扱う「コンディヤック『人間知識起源論』の二種類の1746年版について」いう論文の準備を進めた。
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