平成21年度は、「ユダヤ系移民によるアナーキズムの形成と変容」について、研究内容の具体化のため、前半では、これまで収集してきた史料・文献の整理およびその分析を通じたデータベースの作成、それらと本研究との関連づけを行い、後半では史料・文献の収集とその分析を実施した。その中間報告が、2009年度歴史学研究会大会の近代史部会における本研究の成果としてアメリカ合衆国におけるユダヤ系移民アナーキストに関する学会発表である。当日の報告および他の報告者、コメンテーター、そして部会出席者との討論を通じて、本研究の意義が確認されると同時に、今後の課題が明確になった。なお、近代支部会全体に関しては、朝日新聞からの取材があり、記事で言及があった(「アナーキズム再び」『朝日新聞』2009年6月11日)。これにより、アナーキズム研究がマスメディアによっても注目されていることが明らかとなり、そのような側面からも本研究の現代的意義が確認されたと言える。 以上の中間報告に向けた準備、及び、報告後に今後明らかにすべき諸問題を整理する過程で、従来収集してきた資料・文献の整理・分析をさらにすすめるとともに、そこから、今後収集・分析すべき新たな史料・文献、とくにアメリカにおけるイディッシュ語ジャーナリズムの形成、それを媒介にしたニューヨーク、ロンドン、ロシア西部国境地域の諸都市をつなぐ、ユダヤ系移民アナーキストによる「環大西洋ネットワーク」の存在が推測できるようになったため、それらを解明すべく、文献・史料の収集・分析をすすめた。また、2009年10月に上梓した翻訳が、ロシア出身のユダヤ人を対象としたものであったため、今年度に収集した文献・史料分析の成果を反映させることができ、さらに、翻訳作業を通じて、本研究で収集すべき資料・文献が明らかとなった。2010年2月末~3月上旬にはアメリカ議会図書館所蔵のPaul Avrich Collectionを調査し、史料を収集するとともに、先行研究の成立経緯とその蓄積を把握し、今後調査すべき史料・文献をデータ化することができ、次年度の研究計画の具体化につなげることができた。
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