本年度の中心的課題は、本研究の学問し的意義を明確化することと、ベークとドロイゼンの主要テクストを読破して、それぞれの解釈学的理論を理解することであった。 ベークに関しては、Encyklopadie und Methodologie der philologischen Wissenschafienの序論と第一主要部第一部の翻訳・註解を完了し、それを活字化すると同時に、その研究成果を「アウグスト・ベークの解釈学」という論文に仕上げた。ドロイゼンに関しては、Historikの最新の校訂版と従来の版との比較検討を行ないつつ、入念に読解する予定であったが、遺憾ながらこの作業は予想外に煩瑣で、まだその中途にとどまっている。しかしその代わりに、Grundriss der Historikの読解を通じて、ベークの歴史理論ならびに解釈学理論について、その基本的特徴は十分に理解した。加えて、シュライアーマッハーの一般解釈学の構想について調べ、これがベークの解釈学理論に大きな影響を与えていることと同時に、ベークが「歴史的解釈」により重要性を置いていることを確認した。ガダマーとの批判的対決はこれからの重要な課題であるが、これまでの研究からある程度の見通しが立ちつつある。 また夏期休暇を利用してドイツを訪れ、現地での史跡調査と資料収集を行なってきたが、国内では入手しがたい資料や情報を得ることができ、今後の研究遂行に大きな弾みがついた。ミュンヘン大学のグラーフ教授に面会し、本研究への協力を取り寄せることができたことも大きな収穫だった。 一年目の研究成果は、2010年1月に京都で開催された「京都ヘーゲル読書會」で口頭発表し、またその原稿に基づいて論文「解釈学と歴史主義-A・ベークとJ・G・ドロイゼンを中心に-」を完成した。
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