ベークとドロイゼンの原典資料を精読しつつ、その思想をシュライアーマッハー、ディルタイ、トレルチなどと比較して分析した。また「歴史主義と解釈学」という主題を、ギリシア神話にまで遡って考察することを思い立ち、クリオとヘルメースが歴史的にどのように表象されてきたのかを、パリ、ベルリン、ドレスデン、ミュンヘンなどの美術館で調べてきた。その成果は『人文論集』第48号に発表した。 ドロイゼンの「探究的理解」についての考察は、日本宗教学会学術大会で口頭発表すると同時に、学術論文に仕上げて『年報 新人文学』第7号に寄稿した。これ以外にも、本研究の成果をうちに含む学術論文を2本完成させ、それぞれ『人文論集』第46号と『聖学院大学総合研究所紀要』第48号に寄稿した。 平成22年度の研究によって明らかになったことは、ベークがシュライアーマッハーの一般解釈学の構想から多くを学びながらも、歴史的現実により根ざした独自の解釈学のモデルを打ち立てたこと、またドロイゼンがベークのそのモデルを歴史学に応用して、まさに歴史主義的な史学論を確立したことである。筆者の予想では、ベークからドロイゼンに引き継がれた解釈学モデルは、つぎにディルタイに継承され、ここにおいて「確信のアナーキー」というきわめて深刻な問題に逢着することになる。 ベークの解釈学についての研究は、他方で、彼の師であるシュライアーマッハーの一般解釈学の構想へと立ち返ることを余儀なくしたので、これについても厳密な研究を行なったが、これによってガダマーのシュライアーマッハー理解が一面的であることも明確になった。 以上の研究成果は、来年度中にまとめ上げて、遅くとも平成24年度上半期中には一冊の書物として公刊すべく、目下鋭意努力しているところである。書名は『歴史と解釈学-《ベルリン精神》の思想史』となる予定である。
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