平成21年度は、研究年度2年目として、研究成果発表をできるかぎりで行った。日本宗教学会編『宗教研究』(2011年3月刊行)に掲載した「クザーヌスにおける宗教寛容」では、クザーヌスの1453年の"De pace fidei"における神概念と信仰概念を、彼の説教に見られるペトルス・ロンバルドゥスの諸定義から解明した。さらに新プラトン協会での発表「クザーヌスとプロクロス」では、クザーヌスがすでに修学時代より入手していたProclos Latinusに見られる彼の欄外註と、彼の長年の説教原稿を分析しつつ、彼の一性概念が新プラトン主義者とりわけプロクロスの一性概念の超克により得られたものであること、とりわけ、プロクロスにおいては「神々」のランクに位置づけられる「分有されるもの」がクザーヌスにおいては神の内的構造に組み入れられることにより、神的一性が同一性構造を持つものであることを明らかにした。さらに、本発表をもとにして著した論文「クザーヌスとプロクロス-"De genesi"を中心に-」では、クザーヌスは「分有不可能なもの」である「一性」と、「分有されるもの」を内包した・同一的構造をとる「一性」とは、プロクロス的なランクの上下を持つ「一性」と「同一性」としてあるのではなく、単に肯定神学的に数多的世界の根源として「一性」を捉えるか、否定神学的に数多的世界を超越した「一性」と捉えるか、という神への人間精神のアプローチの違いから出来してくる神の相の違いであると捉えていた、という知見を得た。これはまた、クザーヌスがプロクロス的な見方に対して、自らが偽ディオニュシオス・アレオパギタ的な視点を取ることを明らかにしたことでもあり、後年の著作、4者対談の構成をとる"De li non aliud"でのクザーヌス自身の立ち位置、他の思想派に対する彼自身の立場の明確化へ繋がっていくことを明示したことでもあった。
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