死の臨床とケアの根底を支えるものとしての死の思想史についての文献学的研究をおこなった。人間はどのように死に向き合う存在なのか、また死を看取る側に求められるケアの実践はいかにして可能であるか-これらの問いに答えるために、東西の古典文献のなかで死の哲学、思想が取り上げられている主要なテクストを収集し、現代の実践的な諸問題と関連づけて考察した。死と生を一つの連続したものとして理解し、死に向き合うこととケアの営みが、「人間の生」、「生命・生活・生涯」と密接に関わるものであり、多くの思想家にとって死について考察することはよく生きることへと結びつくが本質的なテーマであることがわかった。海外共同研究者から特に聖書における死の理解と実践について、また聖書に見られる癒しと病者への関わりについて専門的的知識の提供を受け、討議を重ねた、さらに比較思想史的見地から死と癒しをめぐる東西の思想・宗教の横断的な地平を考察し、二元論的な生と死についての西洋哲学の理解は、生と死を連続するものとして捉えようとする仏教の死生観と異なることも明らかになってきた。西洋と東洋の死生観の違いが、終末期の患者を受け入れている医療機関、ホスピスでどのように具現されているかを調べるために、国内の仏教経営のビハーラのホスピス、ならびにカトリックのホスピスを訪ね、インタビュー、調査を実施した。「死に臨む言葉」というシリーズの論文を掲載中である。
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