本年度は、伊勢・日光・會津などで文献・実地調査を行うとともに、日本と東アジア諸国の祭祀秩序との比較検討を進め、その成果の学会報告、論文公表を行った。 日本の祭祀秩序については、二所宗廟とされた伊勢・八幡をはじめとする江戸時代の国家祭祀対象神社の社家の序列にかかわる論考を発表した。それらの神社の社職は、古代には近畿・地方を問わず国家公権によって補任されていた。江戸時代に至っても、近畿の諸社では天皇・朝廷からの社職の補任が続いていた。一方、地方の大社ではその伝統が途絶えていたが、宇佐八幡宮のみ「二所宗廟」の一という認識から、江戸時代にその回復がなされ、位階も18世紀の末に三位を許されるなど、他の地方大社にはない待遇を受けた。これは「二所宗廟」の一たる宇佐八幡宮への国家的崇敬の高揚が、補任や昇叙の面に現れたものである。 このような近世日本と同時期の東アジア諸国の祭祀秩序を比較して、江戸時代の国家権力の質を問う成果も発表した。徳川政権を「徳川王権」と位置づける動向に対し、それが国家祭祀権を欠いていることを中国・朝鮮・ベトナムの国家祭祀との比較を通じて指摘した。あわせて儒典に則り、宗廟祭祀のほかに天地・社稷祭祀を重視する中国・朝鮮・ベトナムの「大陸モデル」と、それが在来宗教の掣肘によって変質した日本・琉球の「島国モデル」の、近世期東アジア世界における国家祭祀の二類型を措定した。 その他、ベトナムに残る漢文石碑の書籍を購入し、内容分析を進めている。大部にわたるため、未だ分析が不十分なところがあり、本年度予定していた現地調査は次年度に行うこととする。
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