本年度は最終年度であるため、成果の公表と、蒐集資料データの確認・補完作業を中心に研究を推進した。成果の公表という点では、海外を含む3本の研究報告と、5本の研究論文を公表することができた。論文のうち、ベトナムを含めた形での東アジア諸国の祭祀とエスノセントリズムの関係性を比較検討した「「蛮夷」たちの「中華」」、近世日本の国家祭祀をいかに捉えるべきかについて論じた「近世日本の国家祭祀」は、本研究の集大成である。前者においては、ベトナムを含めた東アジア研究の推進の必要性と、それが祭祀を対象とした比較研究という手法に拠って行い得ることの有効性を主張できた。後者においては、定見がない近世日本の国家祭祀という問題を、朝廷と幕府による祭祀の執行と神国思想・儒教的規範を踏まえながら検討し、一定の見解を示すに至った。いずれも近世日本の祭祀秩序観を、そのエスノセントリズムを踏まえながら、東アジア諸国との比較において検討することで得られた成果であり、本研究は所期の目標を一定度までは達成することができた。この成果を、韓国・台湾の研究者に伝えることができたことも、本研究にとって大きな意義を有する。 武家の霊廟祭祀については、必ずしも十分な研究が推進できなかったが、岡山藩主池田家墓所の調査を行うことができ、本研究をかかる方面において伸張させてゆく基盤は形成し得たと考えている。 蒐集資料データの確認作業としては、ベトナムの碑文の確認を行った。石碑拓本集『越南漢喃銘文拓片總集』で判読不能な文字につき、その原本である漢喃研究院所蔵の拓本や、寧平省華閭での実物確認を行い、現時点では万全のデータを整えることができた。これらは、国内では閲覧の難しい資料データであり、何らかの形での公表を考えたい。
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