平成21年度は課題研究の第一段階として、ロマネスクの黎明期から初期にかけての柱頭群を二度にわたり調査した。 第1回目の現地調査(2009年9月16日~10月6日)は、次の各地で実施した。パリのサン・ジェルマン・デ・プレ教会堂(身廊の葉飾り柱頭および説話柱頭)、オータン(ロラン美術館収蔵の柱頭)、トウルニュ修道院(クリュプタおよびトリビューン、回廊、周歩廊の柱頭)、シャルリュー旧修道院(身廊廃墟および玄関間、トリビューン、集会室の柱頭)、パレ・ル・モニアル、ヴェズレー、スイスのロマンモティエ修道院とペイエルヌ旧修道院(内陣および翼廊、トリビューンの柱頭)。各地での研究目的は次のとおりである。サン・ジェルマン・デ・プレの説話柱頭(ただしオリジナル柱頭はパリ国立中世美術館蔵)に見る図像の選択と構図と配置を建築空間の中で検証した。スイスの二つの修道院は、第二クリュニー教会堂が現存しないため、それに代わる11世紀前半のクリュニー系修道院の現存例として建築空間の中で柱頭を調べた。ブルゴーニュ地方の諸教会堂では柱頭彫刻の発展段階を跡づけた。 第2回目の現地調査(2010年2月27日~3月8日)はピレネー山脈の南北に横たわるカタルニア地方に散在する黎明期のロマネスク教会堂(スペイン側はリポイ、サン・ボアン・デ・ラス・アバデサス、セオ・デ・ウルヘール、フランス側はサン・マルタン・ド・カニグ、サン・ミッシェル・ド・クシャ)とトウールーズのサン・セルナンで実施した。ロマネスク時代のカタルニア地方には、今日と同義の国境はなく、独自の地域文化が早くから開花した。石工と彫刻匠はピレネー山脈の南北を往来し、建材と表現様式に共通点が認められる。これらの教会堂には説話柱頭はほとんどなく、意匠化された葉飾りと動物文が柱頭の形体に力強く合致し、柱頭装飾のいくつかの定型をつくっていた。
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