研究概要 |
本研究は、ロマネスク芸術の特質である自由自在な造形原理を柱頭という建築部材を対象として、その黎明期から終焉期にいたるまでの展開を跡づけることを目的とする。研究の実施にあたっては、教会堂という建築空間とその建築構造体の要所をなす柱頭彫刻との関わりを重視し、不可分の総体として考察する。このため、現地でのフィールド調査が研究の基礎となる。平成22年度のフランスにおける現地調査は5月と11月の二度におよび実施された。 5月7日~17日の調査では、説話柱頭がロマネスク美術の初期の段階からすでに、身廊、玄関塔、周歩廊の場所に採用されていた点に注目し、その代表的作例として、サン・ブノワ・シュール・ロワール修道院の柱頭を調査した。玄関廊の柱頭群が示すように、ロマネスクの柱頭は葉飾り柱頭から説話柱頭に発展的に移行するのではなく、初期の段階から説話柱頭が突如現れ、併用されるようになった点は重要である。 11月13日~27日の調査はクリュニーとモワサックで実施した。クリュニーでは、近年急速に進んだ第二教会堂の発掘と第三教会堂現存部の整備にともない、11世紀初頭のロマネスク黎明期から、1110~1130年代の盛期を経て、12世紀後半のゴシック初期にいたるまでの各段階を、葉飾り柱頭に跡づけることが可能になった。同じクリュニー系のモワサック、サン・ピエール修道院では回廊柱頭を調査した。東西南北のギャラリーに現存する柱頭は全部で76あり、ロマネスクの回廊の姿をもっと,もよく伝えている。ここでは、歩廊側から見える面と見えない面、見えても逆光線により見えにくい面、交互に配置された双柱頭と単柱頭など、さまざまな条件の下で、葉飾り柱頭と説話柱頭がどのように配置され、柱頭の各面が構成されているかを調査した。
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