本研究は、シエナの彫刻家アントニオ・フェデリーギにフィレンツェ出身の彫刻家ドナテッロがおよぼした具体的な影響を考察する。今年度は、まず近年研究の進捗が著しい、大聖堂などシエナの諸施設に制作したドナテッロ作品の基本データを、研究文献によってイメージと一緒に集積し、その整理をおこなった。またフェデリーギと、アンドレア・ヴェロッキオなど同時代のフィレンツェを代表する彫刻家の関連作品を、彫像や浮彫にほどこされる古代風モティーフなどの細部に注目し両者の交流関係を検討した。この考察には、古代の石棺や、フィレンツェのメディチ家が所有していた、古代のカメオなど図像上の共通する源泉と考えられる作例の調査が不可欠であり、その検討をあらたに開始している。 現地調査では、フェデリーギ研究の第一人者アレッサンドロ・アンジェリーニ、シエナ大学准教授と面会し、フェデリーギ彫刻と同時代フィレンツェの彫刻家、とりわけアントニオ・ポッライウォーロの彫刻および絵画作品との比較、特に装飾モティーフに注目した研究が重要であるとする助言を得た。あわせて、この機会に、シエナで開催中の「初期ルネサンスのシエナの諸芸術-ヤコポ・デッラ・クエルチャからドナテッロまで-」展で、フェデリーギ作品のみならず、初期に彼が学んだデッラ・クエルチャ、そして、かつてシエナ大聖堂床面を飾った墓碑など、フェデリーギの造形に大きな影響をあたえたドナテッロの作品、をはじめとする関連作品を一堂に精査することができた。また同展の学術委員のひとり、アンドレア・ディ・マルキ、フィレンツェ大学准教授と面会し、同展の構成および作品選定について詳細な経過説明を受け、シエナ芸術の展開におけるフェデリーギ彫刻の意義について、さらに14-15世紀のシエナとフィレンツェとの芸術交流について意見交換をなした。
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