本年度の研究対象は、釜山窯が成立する以前の「プレ釜山窯期(1610~1638年)を中心に実施した。現在の研究では、豊臣秀吉の朝鮮侵略後まもない1610年代には、日本から注文を受けた茶碗の製作が始まったとされている。しかし、この時期の作例について具体的な実例は示されておらず、これについて調査を行い、本年度は釜山窯の成立過程に相当する基礎資料の収集を行った。 調査内容のうち、国内調査は京都および堺環濠都市出土の朝鮮陶磁の調査を行った。また国外調査については、韓国釜山を中心に釜山窯関連資料と、その成立過程に相当する窯跡出土資料について精査を行った。各資料収集においては、携帯顕微鏡で目跡の拡大写真をとり、生産地同定のための基礎データを集積した。 この上記調査結果を関西近世考古学研究会にて発表した。その内容は関西近世考古学研究会に発表したとおり、釜山窯成立以前の碗形の詳細な編年表を作成し、具体的な日本向けの茶碗と現地向けの碗の差を描き出すことができた。また携帯顕微鏡写真の解析による生産地同定が有効であるとの予測が得られた。 本研究結果の意義と重要性は、従来の研究では不明であった現地向けと日本向けの碗形の相違を明確に描き出したこと、ならびに確実な生産地同定法の予測が得られたことにあり、釜山窯へ向けてどのような碗形の取捨選択と生産が行われてきたのかを考えるうえでの基礎作業として重要性をもつものであると考える。
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