今年度の調査研究は、海外における実地調査と国内における文献調査を進めた。 まず海外調査では、韓国・東亜大学校博物館所蔵の釜山窯片の再調査を行い、前回の調査で不足していたデータを補足し、これにもとづいて整理、分析を行った。さらに近代期の論文収集のなかで発見した釜山窯の古地図や記録にもとづいて、現地の研究者の協力のもと現地踏査を行った。これらの踏査や資料調査に関して韓国文物研究院、釜山市立博物館、釜山近代博物館の関係者の方々から多くのご教示を賜った。 国内調査では釜山窯と対州窯に関する文献調査を行い、近現代における釜山窯の調査についての小稿と文献リストおよび解題を作成した。その結果、従来は見落とされていた文献の発見にいたり、東亜大学校博物館所蔵の陶片の発掘経緯を再現することが可能となった。 以上のような成果にもとづいて、研究協力者の永井正浩氏とともに東亜大学校博物館の釜山窯片について資料分析を行った論文を学会誌に投稿し、現在は査読中である。また国内調査に基づいてまとめた成果物については、浅川伯教『釜山窯と対州窯』の復刊に合わせて発表予定である。 本年度は助成の最終年度であったが、過年度まで含めた研究の意義は、従来まったく注目されてこなかった窯詰めの技術考察から、当初は朝鮮王朝の在地式であったものが、17世紀後半から日本と朝鮮の技術を混合、改良することによって新たな茶陶を生み出したことを明らかにしたことにある。さらに美術史研究の可能性として、狩野元信が下絵にかかわったと目される作例をいくつか抽出するに至った。 本結果の重要性は、文献上のみで指摘されてきた「細工唐人」の実態を明らかにしたことにある。窯道具にみられる技術交流は「細工唐人」と対馬から派遣された陶工たちのものづくりを通した誠心の交わりともいえるであろう。
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