1)研究計画に基づき、2010年8月25日~9月3日、及び12月26日~2011年1月8日の期間、ニューヨーク、及びパリとその周辺で資料・作品調査を行った。ニューヨークでは主にニューヨーク近代美術館でアンリ・マティスを中心に現代美術を含めた作品調査を行い、メトロポリタン美術館では、同館が多数所蔵しながらこれまでまとめて展示されることの少なかった1920年代を中心としたアール・デコ期のフランスにおける装飾芸術の作品調査を行う機会に恵まれた。パリにおいてはフランス国立図書館、及び装飾美術館、ブーローニュ=ビランクールの30年代美術館における所蔵品及び資料室の調査に加え、ナンテールの現代国際資料図書館(BDIC:Bibliotheque de Documentation Internationale Contemporaine)の所蔵する1931年のパリ植民地博覧会に関する特別資料の調査を行った。さらにベルギーのトゥルネイ美術館で、ジャン=ピエール・ド・リークによる学術的な研究をもとに開催された、1920~40年における西欧の植民地主義と絵画・写真をはじめとするイメージとの関係をテーマとした展覧会を見学し、作品調査と資料に関する重要な示唆を得た。 2)以上の調査、資料収集に基づき、西欧における植民地主義を背景とする非西欧の情報や物の流入に伴う「他者」への関心と、近代美術史学の形成期における芸術と装飾をめぐる概念の位相との関わり、及び19世紀末から現代へ至るフランスを中心とした美術や装飾芸術における「他者」表象や、非西欧のオブジェや装飾、技法の受容や応用の実例、装飾と「他者」をめぐるまなざしや言説の構造を検討し、本研究全体の方向性を示す論文を発表した。本論文は装飾と「他者」の関わりをめぐる問題が、これまでの美術史のあり方や語りの構造を根本的に問い直す重要な問題である事を明らかにした。
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