本研究は、カトリック改革が西洋美術に及ぼした影響を解明するため、16世紀後半から17世紀初頭にいたるローマを中心とするイタリアにおける教会と美術との関係に注目し、作品をめぐる権力と受容の問題を通して、カトリック改革が、マニエリスムとバロックとの過渡期であるこの時代の美術にどのように具体的に作用したのかを探るものである。本年度は、まずカトリック改革の北方での影響と展開について調査した。南ネーデルラント(フランドル)では、16世紀末のイコノクラスム以降、フランケン兄弟やマールテン・デ・フォスによってカトリック改革を反映した造形表現が見られ、その傾向はルーベンスの盛期バロック様式によって完成された。こうした美術を視察して回った。さらに、イタリアのバロック美術が遅れて伝播し、18世紀初頭に華麗なバロック美術が展開した南ドイツ、バイエルン地方に散在するコスマス・ダミアン・アザムとエギット・クイリン・アザムのアザム兄弟による諸教会の装飾について調査した。ヴェルテンブルクやロールにある教会装飾は、ベルニーニの総合芸術(ベル・コンポスト)の思想を究極まで発展させたものであり、カトリック改革の理想とする雄弁で感情に訴えかける民衆的な美術の完成型と見ることができる。 また、ローマでは没後400年を記念してカラヴァッジョに関する大規模な展覧会が開催され、従来のカラヴァッジョ研究を集大成するような研究が相次いで発表されたため、それを調査した。
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