本研究は、カトリック改革が西洋美術に及ぼした影響を解明するため、16 世紀後半か17 世紀初頭にいたるイタリアを中心とする教会と美術、政治と美術との関係に注目し、作品検閲・装飾事業・収集活動といった、作品をめぐる権力と受容の問題を通して、カトリック改革が、マニエリスムとバロックとの過渡期であるこの時代の美術にどのように具体的に作用したのかを探るものである。 16 世紀後半に日本にもたらされ、教皇庁や教団の画像輸出政策と画像をめぐる宣教方針についても、記録・資料と布教用画像との両面から調査した。17世紀以降の国内の南蛮美術の資料を調査し、従来の南蛮研究の成果を咀嚼して図像の分類やその意味内容についても考察を深め、いくばくかの成果を得た。 海外調査では、カトリック改革の影響が顕著でなかったと思われてきたフィレンツェを中心に、トスカーナ地方における17世紀初頭の画壇について現地で調査を行った。教皇領であったボローニャ絵画の影響が強く及んでいることを確認し、フィレンツェのバロック美術の萌芽を跡付けることができた。ボローニャの美術におけるカトリック改革の問題についても、近年発見や研究が深まっていることを知り、さらなる研究の必要性を感じた。ローマとフィレンツェの研究所と図書館において当該研究の資料を収集し、調査することができた。それによって、カトリック改革の政策と思想が、17 世紀に入ってから徐々に変化していく過程を読み解くことができた。
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