本研究は、インドネシアのイスラーム化以前における6~13世紀頃の「儀礼や儀式等に用いられる法具(宗教工芸品)」について、その様式・形態・製作年代の体系化をはかることを第一の目的におき、その成果から、未だ不明の点が多く残るインドネシア宗教史の究明を目指すものである。作例の乏シイアジアの他地域と異なり、インドネシアには、ヒンドゥー教、仏教、密教と、幅広い宗教に渡って法具が存在し、数多くの現存作例が確認できる。ゆえに当地の法具の体系化をはかることは、アジアの「法具の基準」をつくることにつながる。本研究の成果は、インドネシアの宗教史の究明を導くことに留まらず、他地域の現存作例との比較研究をも可能にし、最終的に「アジアにおけるヒンドゥー教、仏教、密教美術の伝播・変容・展開」という大きな問題の解明に、重要な役割を果たすものと考えられる。 平成21年度は、研究計画にのっとり、インドネシア、ジャカルタ地域とジョグジャカルタ地域の調査を行った。ジャカルタは、ジャカルタ国立博物館において、鋳造の法具を中心に、法具を持した石像、鋳造像の調査、写真撮影を行い、像やその法具についての詳細な分類、分析を行った。また、ジョグジャカルタにおいては、寺院のレリーフや、祀られている像の法具について調査を行った。すなわちボロブドゥール、ムンドウット、ロロジョングラン、サリ、カラサン、サンビサリ、プラオサン等を中心に、丹念に法具の確認を行った。また、博物館についても、ソノブドヨ博物館等において、実際に儀礼に使用されていたと考えられる法具について調査を行った。帰国後は、それらの膨大な資料の整理、分析、考察をデータ化することに努めた。
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