研究概要 |
目的(1) 「鑑賞学の理論を深化・発展させる」ための研究計画に沿って、文学テクストおよび視覚テクストを読解する「読み」の理論に関する文献を収集し、収集した文献の中で目的(1)の達成にとって特に重要と思われる文献を精読・分析した。研究代表者が本年度の研究で特に注目した文献は、Wolfgang Iser "Der Akt des Lesens", Wilhelm Fink Verlag(ヴォルフガング・イーザー『読書という行為』)である。この書は、「読み手」ないしは「鑑賞者」の能動的役割を積極的に評価し、読解行為は作品構造とその受容者=読者との相互作用によって初めて成り立つものであることを詳細に分析しているつまり、「読み」は、作者によって作られた文学テクストと、読者が成し遂げる「具体化」とが切り結ぶ地点において成立するのであり、文学作品は作者が書いたテクストそのものではなく、テクストと読者が収斂する場所に現れるものである。言い換えれば、文学作品は読書過程においてのみ顕在化するということになる。この考え方は、目的(1)にとって極めて重要であり、次年度の計画に予定している論考に取り入れていくつもりである。しかし、その際の問題点は、イーザーが文学的テクストを扱っているのに対し、研究代表者は視覚的テクストを研究対象にしているというところにある。これは次年度の課題となろう。目的(2) 「イタリア・ルネサンス美術を題材として鑑賞教材を作成する」ための研究計画に関しては、イタリア・ルネサンス美術に関する文献資料を収集し、それらの文献資料により事前調査をした上で、平成21年9月7日~22日まで、北イタリア(ミラノ、マントヴァ、ヴェネツィア、パドヴァ)にて、鑑賞学実践研究のための題材を求めて、実地調査した。47カ所にのぼる美術館および教会堂において調査した成果は、平成22年度以降に予定している実践研究において証明されるはずである。
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