目的(1)「鑑賞学の理論を深化・発展させる」ための研究計画に沿って、拙論「行為としての鑑賞-鑑賞学の序章としての鑑賞行為の分析-」(『大学美術教育学会誌』第25号平成5年)を発展させた形態の理論的考察を論文としそまとめ、美術科教育学会誌『美術教育学』第32号(平成23年3月)に発表した。論文名は、「「行為としての鑑賞」再考-鑑賞学の基礎理論の再検討-」であり、本論文において、読解行為に関する昨年度の研究成果を活かしつつ、画像の読解の具体的な在り方について論究した。すなわち、(1)画像間の差異の関係を分析すること、(2)画像の表示的意味と共示的意味を読み取ること、(3)画像の「圧縮」と「置換」を読むこと、(4)画像間のインターテクスチュアルな関係を読むこと、の4点が鑑賞者の思考=読解に不可欠な技法として、具体的な事例を伴って提示された。そして、本論文において初めて、美術研究の世界において、鑑賞者の行為に基盤を置く鑑賞学が美学・芸術学・美術史学を基礎研究とする応用研究であること、また、鑑賞学に基づいて行われる鑑賞学実践研究が応用研究を基礎とする開発研究であることが指摘され、さらに、鑑賞学が、画像を深く繊細に享受する技法を活用することを通して人間性を高め・深める実践学として、広義の人間学であり得ることが指摘された。 目的(2)「イタリア・ルネサンス美術を題材として鑑賞教材を作成する」ための研究計画に関しては、イタリア・ルネサンス美術に関する文献資料を収集し、それらの文献資料により事前調査をした上で、平成22年8月25日~9月10日まで、南イタリア(ローマ、ティヴォリ、ヴィテルポ、ナポリ、ポンペイ、アマルフィ)にて、鑑賞学実践研究のためめ題材を求めて、実地調査した・56カ所にのぼる美術館・遺跡および教会堂において調査した成果は、平成23年度に予定している実践研究において証明されるはずである。
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