本年度は、研究目的(3)「学校現場において生徒に向けて鑑賞授業を実践し、鑑賞学実践研究を完遂する」を達成し、かつ、3年間の研究期間の総合的成果を出す年度である。二件の鑑賞学実践研究を予定していたが、そのうち一件は平成21年度に実施された北イタリアでの調査に基づくもので、実施を一年前倒しして、平成23年3月に発表済みである(「鑑賞学実践研究19-ミケランジェロ作《ロンダニーニのピエタ》」)。もう一件は、平成22年度に実施された南イタリアでの調査に基づく「鑑賞学実践研究20-ティツィアーノ作《パウルス3世とその孫たち》」であり、平成24年3月に発表された。いずれも査読有の学会誌(大学美術教育学会誌)掲載され、査読者から高評価を得た。鑑賞学実践研究の立案・作成過程は以下のように行われた。(1)まず、鑑賞課題作品に関する一定量の文献資料を収集・読解し、鑑賞課題作品についての標準的見解を確定する。(2)次に、(1)で得られた知見に基づきながら、自身の独自な解釈を含む、鑑賞課題作品についての見解をまとめる(=スクリプト)。(3)スクリプトを軸に授業の方向性を定め、授業展開を具体的に構成する発問文や説明文(=シナリオ)を作成する。シナリオは鑑賞者(=生徒)の独自な発想や思考を刺激する要素を持っていなければならない。(4)授業展開において必要となる資料・図版等を選定し、必要情報を含む文章を添えてパワーポイントによるスライドとして編集する。(5)授業を実践し、その分析結果を論文の形態で公表する。二件の鑑賞学実践研究を行った結果、「見る」「知る」「考える」という鑑賞行為を重視する鑑賞学理論の有効性が改めて確認できた。平成22年度に発表された理論的研究である「「行為としての鑑賞」再考-鑑賞学の基礎理論の再検討-」および上記の二件の鑑賞学実践研究によって本研究は総合的成果を提出できた。
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