本研究は、中国唐代の仏教界を代表する律学匠であり、屈指の仏教史家として名高い道宣の著作『集神州三宝感通録』について、美術史の立場から全文の現代語訳と詳細な注解をおこない、美術史料としての本書の位置付けを追究することを目的とする。 今年度は、阿育王伝説を有する仏塔と舎利の霊験記事を集めた、巻上の「石趙青州東城塔縁三」から「隋〓州晋源県塔縁十四」について、訳と注釈を付した。底本は『大正新脩大藏経』巻52所収本(406頁aから408頁b)を用い、『続高僧伝』巻26感通篇、『廣弘明集』巻17、道世の『法苑珠林』を参考にして、文字の異同を校勘した。 注解に当たっては、原則的に初出の固有名詞はすべてを対象とし、美術史の立場から内容の拡大的解説を施した。注釈を付した箇所は118箇所に上る。その主なものを挙げると、仏骨と舎利との語義の相違、舎利容器の入れ子形式、「救苦寺大像」「扶風法門寺塔」、「三十年一開」(舎利の開帳の時期・作法・意義について)、「燃指供養」「行道」「塔内の像」「舎利の放つ光明」「法門寺舎利の形状」「仏頂骨・仏頂骨の献上」「地獄の情景」「廊廡」「白馬寺」「福感寺」「心礎に舎利を安置する例」「斗栱」「博山」「四神」「十二神王」「依図刻木」(神仏の姿を描き写して彫刻を作ること)、「塔を守護する龍」などである。 上記の結果については、申請時に計画したとおり広く意見を聴取して改正を加えるべく、年度内の2010年2月に冊子体の形で公開し、国内外の関連分野の研究者・研究機関に配布した。なお、本研究の研究協力者として、大学院生ら13名の熱心な協力を得た。 また、『三宝感通録』巻上の仁寿舎利塔建立について考察を進め、これに始まる-州-寺制度が、王朝中央から地方への-元的な規範-様式・図像・主題の上でも-の波及に与った可能性を「隋・唐前期の-州-寺制と造像」で論じた。
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