最終年度の本年も、引き続いて道宣の著作『集神州三宝感通録』巻上の現代語訳と美術史の立場からの詳細な注解をおこなった。すなわち『大正新脩大藏経』巻五二所収テキストを底本として、四一〇頁aからはじまる「含利感通篇」の漢魏、東晋、劉宋時代を舞台とした計十五の説話と、四一一頁bからの「仁寿舎利塔篇」における「序」以下「隋文帝仁寿舎利塔造立詔」までであり、三年間の研究期間内に、仏塔と仏舎利の霊験を扱った同書巻上をほぼ終えることができた。研究遂行にあたっては大学院生15名の研究協力を得た。 本年度に注釈を付した箇所は全部で115、叙述に要した文字数は400字詰原稿用紙換算で約390枚に上る。特に美術史的問題意識に立ってインド、ガンダーラから日本までをも視野に入れ、遺物や関連する歴史史料、最新の発掘報告をはじめとする先行研究に目配りしながら、一項あたり多いものでは約6000字を費やして叙述したが、単なる平板な辞書的解説にならず、何らかの新たな見解や問題提起を行うことを特に意図したことは、従前のとおりである。主な付注項目に「(釈迦の)牙歯」「髪爪」「目精」「衣鉢瓶杖」「坐処」「漢法本内伝」「踊身高飛」「周閭百間」「騰光上踊作大蓮花」「如来の金剛の骨」「〓獲」「斎食と舎利の感得」「八関斎」「神尼智仙」「仁寿宮」などがあり、釈迦の遺身や遺物に関する事項や、仁寿舎利塔の関連事項には、とりわけ力を入れた。また、仁寿舎利塔事業の目的と、起塔地の分布、仁寿舎利塔関連出土遣物については、研究協力者である大島幸代・萬納恵介が可能な眼りの資料を博捜し、詳細な研究ノート「隋仁寿舎利塔研究序説」を著した。 以上の本年度の成果は、2012年2月に刊行された『奈良美術研究』(早稲田大学奈良美術研究所発行)第12号に掲載し、様々な指摘や意見の聴取のため国内外の関連分野研究機関に配布した。
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