白色顔料の変遷を調べることを目的として、江戸時代の国絵図(4資料)・絵図(9資料)、および宮内庁三の丸尚蔵館所蔵絵画(21作品)の彩色材料調査を実施し、以下の成果を得た。 (1)江戸期国絵図・絵図の調査 江戸期の国絵図・絵図は、製作年代や地域が正確に特定できる資料として、彩色材料の変遷を調査研究する上で重要な作品として位置づけることができる。製作年代および地域が特定できる国絵図4資料(国立公文書館所蔵)、絵図9資料(射水市新湊博物館所蔵)を調査したところ、元禄期の国絵図資料(重要文化財)の中に白色顔料として、胡粉とともに鉛白が利用されている作品が見出された。江戸期絵画の中で、鉛白が使われている作品は非常に少なく、今年度調査した他の国絵図・絵図資料からも鉛白はまったく見つかっていない。今回鉛白が見つかった国絵図の位置付けを十分に検討する必要がある。 (2)宮内庁三の丸尚蔵館所蔵絵画の調査 宮内庁三の丸尚蔵館に所蔵される鎌倉期(13世紀)~江戸期(18世紀)の日本絵画21作品の調査を行った。鎌倉期の絵画(10作品)から見出された白色顔料は鉛白だけであり、胡粉が使われている作品は一例も見出されなかった。 一方、室町期の作品(4作品)では鉛白が使われている作品と胡粉が使われている作品が見出された。目視では鉛白と胡粉の区別は不可能であり、科学的調査によって初めて両材料の使い分けが明らかにされた。さらに、江戸期の作品(7作品)では胡粉だけが使われ、鉛白はまったく見出されなかった。室町~江戸初期あたりにかけて、白色顔料の転換が行われていたことを示す結果であり、それが科学的調査によって裏付けられた意義は大きい。
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