平成21年度は、研究実施計画のうち実際には、東南アジアでの調査と、また次年度以降の実施を考えていた、海外研究者の日本招聘の大きく二つの調査研究を実施した。 前者は、特にタイおよびマレーシア・ペナンにおける木地螺鈿の実態と、その系譜についての調査である。タイに於いては漆地螺鈿が一般的で、これらは主に仏教寺院の扉や窓、あるいは仏教用具などと宗教と深く結びついて使われる。一方木地螺鈿は、楽器類、テーブルやイスなどの日常家具類といった一般富裕者の日常生活上の道具類であり、明らかにその系譜が異なっていることが理解された。また、ペナンの華僑邸宅ではこうした木地螺鈿が富裕の象徴として多用されており、この地域の木地螺鈿がその出身地である中国南部との強い相関性を持つことを示していた。 一方、海外研究者の招聘では、中国およびベトナムからそれぞれ1名ずつを日本に招き、研究代表者の所属する博物館におけるセミナーの実施、岩手県中尊寺での平安時代木地螺鈿調査、同県二戸市浄法寺地区での伝統的漆採集法の調査、さらに沖縄において琉球螺鈿作品の調査や琉球螺鈿の制作工房調査を行い。時間的には古代から現代に至るまで、また空間的にも東北から沖縄までの幅広い見地から日本の螺鈿について実際に見ていただく機会が提供できた。これらにより、アジア各地の螺鈿についてより広い視点からの知見を広げていただくと共に、今後相互に共通した知識や認識の上に、アジア各地の螺鈿調査研究を行う上で重要かつ有効となる基盤を作ることができた。
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