1.ジル・ドゥルーズ『シネマ』の再解読 現代映画理論の頂点に位置する理論書『シネマ』を再解読し、とりわけその第二巻における「時間イメージ」論について理論的に検討した。論文「徳勒茲《電影2》読解:時間影像與結晶」では、結晶イメージを中心に、運動から時間へと移行する契機について、また、時間イメージが有しうる解放としての力について、具体的な作品において考察した。この理論的作業によって、中国の第6世代と「新記録映画」を研究する際の可能な理論的視座を与えた。 2.外国映画との比較研究 平成21年度に始まった外国映画との比較研究に続いて、本年度も、研究論文「水の映画-ジャン・ヴィゴ、ジャン・ルノワール、費穆(下)」を執筆・発表した。つねに動く液体である「水」のファクターを多く含む複数の映画作家の作品を同時に取り上げ、それらの作品における運動と時間の錯綜を比較分析した。この考察によって、本研究の理論的な整備がより具体的なものとなった。 3.第六世代を代表する作家・賈樟柯とその他の現代中国映画作家についての考察 本研究の重要研究対象の一人である賈樟何の映画、および同時代のその他の映画作家(馮小剛、霍建起)について、現代中国映画の全体的な文脈において、また時間イメージとの関係においてそれぞれ具体的に考察した。その成果は、『中国映画のみかた』に反映させており、研究成果の生産が本格化した。 4.研究調査の継続 第六世代映画と「新記録映画」に関する研究資料調査を継続的かつ効率的に行った(研究協力者が当該年度に、研究代表者が次年度〔繰越〕に、合わせて二回)。インデペンデント映画の重鎮である北京宋荘や、近年注目される中国の映画教育研究の拠点である上海大学映画芸術技術学院への研究訪問を通して、資料の交換やシンポジウムについての打ち合わせなど、本研究の実行に有益なものを多く得た。
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