本研究では、映画に潜在する文化的特性を作品から読みだすことを目標としている。それぞれの映画は、物語の筋、舞台、出演者などすべて違うので、内容の研究は、長らく題材、テーマ、物語などの解釈に向けられ、総体として文学研究の映画版とでもいう方向に傾いた。それを避けるため本研究では映画の形式と構造から内容に関心を向ける。 映画は様々な場で撮影した映像(ショットまたはカットを呼ばれる連続的映像を記録したフィルム片)をつなげることにより、出来事を語ったり、主張を述べたりする。単位となるショットは、物理的には、他のどんなショットとつなげることもできるが、文章をなすときの単語のように、内容を語るためにはつなぎ可能なケースが限定され、作り手はいくつかの可能性のうちのどれかを選ぶ。そしてその選択に、ものの考え方が反映する。多くの作品を通しては、時代性や作家性がにじみでる。 本研究は、ショットの定量的分析を通し、各国作品を比較し、それぞれの国で作品の背後にある独自のもの考え方、作り手の思考を支配し観客の作品受容の基盤となる思考の性向を際だたせる。 本年度は、対象とする群に属する作品をショットに分解し、数、継続時間、サイズなどで集計し、また単位時間別ショット数、継続時間の分散度、サイズの分散度など、より細かいデータを蓄積した。さらに、日本、アメリカ、フランスの作品を取り上げ、データ比較から作品の違いを分析ずる作業を進めた。この分析のために、画像認識によるショット境界の検出を肉眼で補い効率よくマークできるようにユーザインタフェースの改良を行い、ショットの集計の精度を上げた。またロングショット、クロースアップなどの構図や、映っているものを分類するメタデータを付けて、汎用性を高めた。
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