最終年度にあたる23年度の「研究目的」は、過去2年度の研究でそれぞれ明らかにしてきた「ナチュラル・コンピューティング(自然計算)」と「アート」を、「ハーネス」という考えを媒介に対話させることであった。この目的達成のために23年度の「実施計画」に記した項目中、主たるものは、「シンポジウムの開催」と「シンポジウム報告書の作成」である(「実施計画」の2)。これに従い、2011年12月18日(日)、ナチュラル・コンピューティングの研究者である鈴木泰博(名古屋大学准教授)、エステティシャンの鈴木理絵子(TFT代表、触譜研究)、合成生物学研究者でハイブリッドアートの実践者でもある岩崎秀雄(早稲田大学准教授)の3名を講師として招待し、「自然計算とハーネスをめぐる」シンポジウムを開催した(於:名古屋大学野依記念学術交流館)。シンポジウムの内容は、報告書「自然計算とハーネスをめぐる」として印刷し関係者に送付したほか、その要点をウェブ公開し、誰もがアクセスできるようにした。 これ以外に、次の2つの成果を挙げることができた。ひとつは、前年度から準備してきた、図書の出版である。2011年5月、みすず書房から単著として『あたらしい美学をつくる』を出版し、その中で、美学におけるパラドクス(「目的なき合目的性」など)やハーネスの概念等について、詳述している。本書は、学術雑誌のみならず、一般紙・商業誌をあわせて、5件の書評・新刊紹介を得ることができ、科学研究費補助金による研究の成果を広く知らしめることに貢献できた。また、本研究の内在的発展として、科学と芸術の協働領域としての博物館における自然科学展示物あるいは自然史展示物の研究をも進め、学会発表、論文発表を行った。なお、本研究の最終的な成果を、2012年3月に開催された第6回国際自然計算研究集会(於:東京大学山上会館)で発表した。
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