本研究は、江戸時代の雅楽における伝承の多様化と統合の問題を、楽人の家系や上演記録と実際の管楽器の楽譜の分析によって考察するものである。従来、雅楽の楽人は、京都、奈良(南都)、大坂(天王寺)の三方、あるいは家ごとに独自の伝承が保たれてきたと考えられてきた。しかし江戸時代以降、三方の楽人は、演奏機会の共有や養子縁組によって、非常に頻繁で複雑な交流をしており、それに伴って「家の伝承」も必然的に交流している実態が明らかになった。本論は、その「人の交流」と楽譜の分析によって、流派とその具体的な音楽的差異を実証的に明らかにした。
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