本研究は、18世紀後半に共存していた3種鍵盤楽器、すなわちフォルテピアノ、チェンバロ、クラヴィコードによって、ハイドンの全クラヴィーア作品の演奏研究を行うものである。本年度はクラヴィコードを主要な研究楽器とし、計3回の演奏会を行った。その内容は、Vol.7クラヴィコードで聴くハイドン初期傑作、Vol.8強弱記号の不思議、Vol.9偽作真作IIである。これまでの9回の演奏会により全クラヴィーア作品の9割程度となる計67曲のクラヴィーア作品を演奏した。各演奏会において本年度は、強弱記号の年代ごとの出現状況を整理し、クラヴィコード、チェンバロ、フォルテピアノの3種鍵盤楽器によって強弱の記譜と実際の演奏効果との関係を検証した。その結果、初期および中期作品の強弱記号はクラヴィコードによる演奏においてもっとも効果的であり、チェンバロやフォルテピアノで演奏する場合よりも劇的な効果が得られる事が分かった。つまりこれはハイドンのクラヴィーア作品全体を俯瞰した時、チェンバロからフォルテピアノへの転換と捉えるのではなく、クラヴィコードからフォルテピアノへの転換と捉えるべきである事を意味している。今後はこの考え方をさらに発展させ、フォルテピアノを想定していると考えられる後期作品をクラヴィコードによって演奏し、ハイドンのクラヴィーア作品全体がクラヴィコードによる演奏観によって貫かれている事を、演奏によって立証していく予定である。
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