平成22年度は、1)1940年代から70年代までのルドルフ・モドレイを中心とした米国における国際視覚言語に関わる運動の展開、および2)アイソタイプ運動の日本への影響の2点の解明を目的とした調査を行った。1)については、平成22年7月11日から7月24日にかけて、米国議会図書館所蔵のマーガレット・ミード・コレクション、国立クーパー・ヘウィット・デザイン・ミュージアム所蔵のヘンリー・ドレイファス・コレクションを訪問し、一次資料の調査を行った。その結果、モドレイは、1940年代から50年代までグラフィックシンボルの辞典の編纂計画を中心とした活動を継続していたが、ICOGRADAなどの数多くの組織による国際視覚言語の標準化の動きが登場した60年代になると、それらに対する啓蒙活動に主軸を移動していたことが判明した。以上の知見によって、戦後の国際視覚言語思想の成立にとってはノイラート以上にモドレイの貢献が重要であるとする仮説が検証できた。研究成果として、「アイソタイプ以降のシンボル標準化運動の展開」(日本デザイン学会第五支部研究発表大会、10月)と題する口頭発表を行った。次の2)日本への影響については、平成22年12月12日から25日にかけて、レディング大学(英国)を訪問し、アイソタイプ・コレクションの資料調査を行った。その結果、アイソタイプを用いた科学絵本の翻訳書を手がけた吉田悟郎とマリー・ノイラートとの書簡を発見し、この事業が最初期(1950年代初頭)の本格的な日本へのアイソタイプの導入であったことを確認した。さらに、モドレイと勝見勝との協力関係についても、ICOGRADAのアーカイブに所蔵された書簡から具体的な確認を行った。以上の新知見は、アイソタイプ以降の国際言語思想の歴史的展開が国際的規模で進展していたことを実証するものである。
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