日本における印章や篆刻の研究、なかでも篆刻家や印譜の、広い視野に立った体系的な研究はまだ殆んど行われていない。まさに未開拓の学術領域であり、考古学、古文書学、美学・美術史、書学・書道史などに大きい成果をもたらすものと確信する。 本研究は、日本の篆刻の歴史的、文化史的な解明を目的とする。総括的には、日本の印学の体系化を目指す。具体的には、印章や篆刻、篆刻家に関する文献・資料の調査、収集、整理、分析、研究をする。調査は、博物館・美術館・図書館・個人の収蔵家を訪問しての資料の撮影、聞き取りや、データーのファイル化が中心となる。また、これまで蒐集した文献・資料の整理、分析、研究をする。 上記の研究の目的に基づき、今年度は、印章や篆刻、篆刻家に関する文献資料の調査や収集、整理、分析に従事し、研究を進めた。具体的には、新潟と福岡、関東方面へのフィールドワークを行った。新潟は古来、数多くの篆刻家を排出している。新潟県立図書館・巻菱湖記念館・会津八一記念館などで調査し、研究を深めるとともに、文献・資料の収集を行った。福岡では、邪馬台国のシンポジウムに参加し、日本古代の歴史に関する新知見を得るとともに、資料を収集した。群馬では書道の3学会に出席し、書学・書道史の新知見を得るとともに、資料を収集した。 今後は、日本の印人の研究、主として高芙蓉(1722~1784)研究、並びに彼を祖とする芙蓉派の一系譜と考えられる、源惟良、小俣蠖庵、福井端隠、山田寒山、山田正平等の事跡と作品分析、そして印学を研究を進めたい。また、わが国の印人伝における唯一の専著と言える中井敬所の『日本印人伝』をさまざまな文献・資料より拾遺し補訂したい。さらに篆刻の専家はもちろん、篆刻に関わる傍系の文人・芸術家の研究も併せて行いたい。
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