日本の箏曲の内、当道箏曲は、既成の三味線曲に箏パートを作曲して合奏するケースが多かったため、三味線奏法の影響があるのではないかと仮定し、もしある場合はどのような形で影響を受けているかについてを中心に調査した。その結果、音色の面では、たとえば、特に手事物の三味線との掛合箇所では、三味線は特別な奏法による擬音技法で音色に変化をつけている箇所が多く、そこでは箏も三味線と似たような音色になるような擬音奏法の工夫が認められ、両者の掛合の妙味を効果的に展開していることが判明した。また、三味線奏法には歌詞との関係から、特定の情景や風物を表す共通した象徴的技法や旋律モティーフの存在があるが(たとえば、虫の音、川の流れ、砧の音、雪が降っている様)、それらのいくつかは、箏曲でも真似していることが判明した。さらに江戸時代後期になると、三味線には見られない箏曲独自の象徴的旋律モティーフも出現したことが判明した(山田流箏曲における「楽の手」等)。 一方、三味線曲との合奏をしない筑紫箏曲では、三味線奏法とは無関係に、歌詞の内容に即して風物を表現する共通した擬音奏法や描写表現が顕著に認められた。たとえば、水の流れを表す「連」、滴が落ちる様を表す「払い爪」、波を表す「蒼海波」「岩越」「連」「打替」、雁が音を表す「雁鳴」、千鳥の鳴き声を表す「岩越」、鹿の鳴き声を表す「スリ爪」、木の葉が散る様を表す「払い爪」、雪が舞う様を表す「払い爪」、カツカツ凍る様を表す「打甲」、深い悲しみを表す「連」「打甲」等の奏法である。
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