(1)一次資料の収集 前年度から継続してフランス国立図書館で第一次大戦中に書かれた戦争に関する戯曲の資料収集を行った。これらの戯曲のうち、特に注目に値するものとして、韻文で書かれた戦争プロパガンダ劇の重要性ならびに戯曲において女性や子供がどのように表象されているかという問題が明らかとなった。 前者については、フランス独自の現象と言えるものであり、言葉によって敵に対する自らの文化的優越性を示そうとする象徴的な行為である。しかし同時にそれは、戦争の過酷な現実に直面すると、破綻せざるを得ない試みだった。結果としてこうした言語表現を重視したプロパガンダ劇の破綻が、戦争後に出現した前衛劇につながる側面があることがわかった。 後者については、戦争中に女性や子供が実際に動員されただけでなく、演劇のような表象の場においても彼らがプロパガンダのために利用されていた実態が明らかになった。しかし舞台上における子供や女性の表象は戦後になると「解放」され、「恐るべき子どもたち」や「自立した女性」というイメージに結びつくことが示唆されている。 (2)学会発表ならびに論文の投稿 上記のような知見に基づいて、日本フランス語フランス文学会でこの時代の戦争戯曲に関する発表をフランス語で行い、一定の評価を得た。その結果、発表論文は学会誌に掲載することが認められた。
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