第一次世界大戦中のフランスにおいて書かれ、また上演された戯曲の調査を行うことにより、以下が明らかになった。(1)戦争プロパガンダにおいて演劇の占める位置の凋落;言葉を主体とした演劇は近代戦争を表象できないことが明らかになった。(2)戦争プロパガンダ劇においては、現実の総力戦と同様に、女性や子供という表象も「動員」された。(3)戦争プロパガンダ劇におけるフランスの特異性;伝統的に言葉の表現力に重きを置くフランス演劇では、あたかも言葉の持つ呪術的な力によって敵を屈服させ、自らの文化的な威信を高めるような詩劇が盛んに上演された。 以上の知見により、第一次大戦は現代演劇の重要な転回点であることが明らかとなった。またこれらの考察は、戦争プロパガンダにおける女性や子供の位置、あるいは戦争を「表象」するとは何かという問題について、新たな考察を迫るものである。
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