1980~90年代におけるイギリスのブラック・アート展とその思想の系譜について研究した。 1. この時代の後半に行なわれた展覧会の図録、展評など、収集済み資料の整理をし、そこでとりあげられている人種、ジェンダー、階級に関わる社会関係への批判をまとめた。その成果は、2010年2月に沖縄県立博物館・美術館でのシンポ「移民と芸術」等で発表した。移民送り出しの地、沖縄で、イギリスにおける移民と表現に関する発表と、現地研究者との議論で、20世紀における世界規模の移動と文化混交のダイナミズムを確認した。 2. 2009年8月17日から9月5日まで、イギリスに出張して調査を行なった。ロンドンとリヴァプールでブラック・アーティストにインタビューし、1980年代、90年代のブラック・アート運動草創期の展覧会関係資料等を収集した。小さな地方自治体が行なった小規模の展覧会では図録を作成しなかったことも多く、参加したアーティストの名前もすべてはわからず、運動の全貌を把握するのはなかなか困難と判明した。しかしロンドンという大都市にかぎった動きではなかったことがわかったのは、収穫であった。 3. 初期ブラック・アート運動のイデオローグであったR・アリーンの著作で未収集のものを集め、彼の所論の考察を始めた。終焉を遂げたはずの植民地支配が文化の領域では続いているという、いわゆるポストコロニアル的二重状況を早い時期に指摘したとわかった。
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