ピアノアクションの動的特性の規格を提案し、アコースティックピアノの最適なタッチを実現するのが本研究の目的である。ピアニストは演奏会場にあるピアノを使うことを強いられており、動特性の悪いピアノアクションを調整する方法は無い。それゆえ、ピアニストの中には自分のピアノをコンサート会場に持ち込む場合さえあり、改良が切に望まれている。ピアノのアクションは、鍵、ハンマー、ウィッペン等を中心とする多くの回転部品の組み合わせであるが、現在まで動力学特性には公的規格が存在しない。本研究では動特性の規格を提案することを通じてこの状態を解消し、最適なタッチを実現するのが目的である。結果からは、ピアニストが感じるタッチを定量化することが可能になり、ピアニストが求めるタッチに調整を求めることが簡易にできるようになる。 平成21年度は、新たに赤外線センサを用いて鍵の動きを捉えることができ装置を開発した。また、アップライトピアノとグランドピアノアクションの測定を行った。この結果、既に提案したモデルの妥当性を検証した。モデルは現代アクションの計測結果と、また歴史的なアクションの計測結果とも一致し、研究の主題である動特性規格の提案とピアノアクションの改良に有効であることを確認した。 また、高速度カメラを用いてアクションの動作を視覚的に明らかにした。これにより、これまでに用いてきた動力学モデルの妥当性の検証も行った。以上から、現段階では摩擦項を定数でなく変数としたり、木材の変形を考慮に入れることは必要が無いことが判明した。
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