19世紀前半から20世紀初頭のポピュラー系公開演奏会について、前年度に続き以下のような調査・研究を行った。 1、同時代資料および文献データベースによる演奏会データの収集と整理 同時代資料(新聞、雑誌、書籍)の情報を含む文献データベースとしてThe Times Archive、Google Books、Repertoire International de la Presse Musicale等を用い、主に19世紀中葉のロンドンとパリに関して演奏会データを収集、ミュザールやジュリアンが主催したプロムナード・コンサートなど大衆向け演奏会の実態把握を進めるとともに、そうした演奏会の実践が「popular music」および「classical music」というカテゴリー概念の形成に対して一定の役割を果たしたことを確認、その歴史的意義を考察した。 演奏会データの収集、整理についてはさらに作業を継続中。 2、19世紀の小説に見られる音楽文化状況の調査 同時代の小説、とりわけ『デイヴィッド・コパフィールド』をはじめとするディケンズの小説に登場する音楽場面から、具体的にどのような音楽・音楽文化がどのような人々によって担われていたかを調査した。1810~20年代のロンドンでは、一時代前の劇場から流行した音楽が人々の階層を問わず一様に広まっていたこと、劇場や歌の描写に熱心であったディケンズが演奏会に関してはほとんど言及していないこと、などが確認できた。 3、研究のまとめと論文執筆 以上のような研究成果をひとまずまとめ、博士論文『19世紀中葉のロンドンにおける大衆的演奏会文化の実態と意義』として東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科に提出した(2012年3月学位取得。刊行は未定)。
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