本研究課題2年目となる平成22年度は、調査研究と中間報告を並行して実施した。 7月には、意匠学会研究発表大会で口頭発表を行った。製紙・印刷・活字鋳造植字のプロセスに機械が導入された経緯、タイポグラフィの範囲が書物から広告や端物へ拡げられた過程、ドイツを離れた気鋭のデザイナーたちがロンドンに滞在して大陸のデザイン様式を紹介した事例を示し、機械化への対応、伝統の継承・発展、大陸のデザイン思想の導入という観点からイギリスにおけるモダン・タイポグラフィの形成過程の背景を整理した。 11月には、ロンドンのセントブライド図書館で20世紀イギリスのタイポグラフィの発展に大きく貢献したエリック・ギルによる碑文拓本・原図を中心に、一次資料調査と撮影作業を実施した。ブライトンのディッチリング美術館では、ギルとその師エドワード・ジョンストンの関連資料の調査を行った。 12月には、フェリス女学院の記念シンポジウムにおいて、19世紀末イギリスにおけるプライベート・プレス運動の動向とその特徴を報告し、モダニズムの前提となる伝統的側面を把握、当時の印刷工芸に関する美意識の傾向をまとめた。 繰越しとなったエリック・ギルの展覧会「エリック・ギルのタイポグラフィー文字の芸術」を、平成23年12月19日から平成24年1月29日まで、多摩美術大学美術館において開催した。未公開の碑文拓本や文字デザインの原図等の一次資料を含む国内外のタイポグラフィの関連作品約200点を一堂に展示した。同年1月21日には、同展覧会の関連企画として講演会を開催し、エリック・ギルの弟子ジョゼフ・クリブの孫でありヴィクトリア&アルバート博物館の学芸員でもあるルース・クリブ氏を招き、国内の研究者も交えた公開の研究交流を行った。
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