本年度の研究の主要課題は、歴史資料を蒐集してアーカイヴを構築する現代アートについて調査することであった。具体例として、ドイツで1960年代から現在までそうした傾向の制作を続けている美術家ジークリット・ジグルドソンをとりあげ、面談調査と資料研究を重ねた。研究成果は、まず2010年11月の表象文化論学会で発表し、さらに論考にまとめたものを学内紀要『武蔵大学人文学会雑誌』に発表した。この調査によって、「アーカイヴ」概念、とくにフランスの思想家ミシェル・フーコーのそれを参照しながら、歴史学の史料解読とは異なる、アートによる「別のオルタナティヴな歴史的知」のありかたを明らかにすることができた。本研究がめざしている、造形芸術による歴史を想起する作業の分析にとって、理論構築のための支柱のひとつとなる成果が得られた。 夏季に行なったドイツでの現地調査では、ジグルドソンへの面談調査のほかに、ルーマニア系ユダヤ人でドイツ在住の作家リアーネ・ビルンベルクに面談調査することができ、研究分担者となっている他の科研費研究でその作家の記録映画を東京で上映した(2011年2月、アテネフランセ文化センター)。この調査をもとに、今後、ビルンベルクを日本に招いての文化・学術交流を企画してみたい。その他の現地調査としては、当初計画していたヨーゼフ・ボイスの作品が美術館の長期休館のために見ることができず、代わりにウィーンで公共空間に設置された戦争とホロコーストの記念碑アートを調査した。この結果も、23年度に行う研究の総括にあたり参考にする。 また、一昨年度から継続している記憶の美学に関する研究会も、6月、9月、12月と行い(年度末に予定していた2011年3月の例会は、地震のため開催中止)、各メンバーがそれぞれのテーマで学会発表(美学会および表象文化論学会)を行って、一定の成果をあげた。
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