研究の最終年度にあたる本年は、これまで記憶表象について申請者が行なってきた個別の事例研究を総括し、理論的支柱をもつまとまった論考として発表することを主たる目的とした。また、本年度は申請者が在外研修で1年間ドイツに滞在したので、現地の研究者や美術家との交流も行なった。 1)記憶表象に関するこれまでの研究の総括:既発表論文をまとめ、本研究をドイツにおける記憶芸術研究の文脈に位置づけるために、戦後ドイツにおける研究動向を調査し、論文としてまとめた。(「ドイツにおける記憶表象の研究状況」本科研費研究報告書に所収)。これを序論とし、すでに発表した6本の論文を加筆改稿して本論として構成し、1本の論文「ドイツ現代美術における想起のかたち-<記憶アート>の技法と歴史意識」にまとめた。本研究の成果として、現在、出版準備中である。 2)ドイツでの現地調査および研究交流:ベルリン・フンボルト大学に客員研究員として在籍し、同美術史学科の教授をはじめ、美術関係者、アーティストなどと情報・意見の交換を行なった。また学術機関や美術館で開催された関連テーマの講演会にも数度にわたって参加し、ドイツとの研究交流のネットワークを作ることができた。 3)学会での研究発表:美術とジェンダーをテーマにした公開シンポジウム「西洋美術とジェンダー-視ることの制度」(明治学院大学)に参加し、「蒐集とジェンダー」のテーマで研究発表を行なった。これは本研究において、記録資料の収集という手法で記憶を表現する現代アートを扱った成果の公表である。本発表の内容は論文として同シンポジウム報告書(明治学院大学『言語文化』)に収めた。 4)研究会および共同調査:二人の研究協力者(鈴木賢子、石田圭子)との研究会を行なったほか、ホロコーストの記憶にまつわる史跡・記念施設などを見学する共同調査を行なった。美学・芸術学を専門とする両氏との共同作業は、本研究の理論的な掘り下げにとってきわめて有意義であった。
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